タイで送電系統の電圧・無効電力オンライン最適制御システムが完成、実証運転を開始

 NEDOはタイのエネルギー省(MoEN:the Ministry of Energy of the Kingdom of Thailand)と電力系統運用の低炭素化・高度化を目的とした実証事業に取り組んでおり、委託先である(株)日立製作所は、タイ王国発電公社(EGAT:Electricity Generation Authority of Thailand)と共同で推進している、電圧・無効電力オンライン最適制御システム(OPENVQ:Optimized Performance Enabling Network for Volt/var(Q))の本格実証に向けて、このたびシステムの構築を完了し、実証運転を開始しました。

 実証運転では、EGATが所有するタイ北東部の送電系統を対象にOPENVQとEGATが運用する給電指令所の電力系統の監視と制御を行うSCADAシステムを連携させました。これにより送電ロスを抑制し、電力系統運用の高度化・効率化を目指します。

 また、これまでのモニタリングデータを分析し、約1000トンの二酸化炭素(CO2)排出量の削減効果を確認しました。今後は、二国間クレジット制度(JCM)の合同委員会に対してプロジェクト登録を行い、2023年12月までのモニタリング結果をもとに第三者機関の検証を経て、CO2の排出量をクレジットとして発行することを目指します。

 なお、これに併せて本日、バンコク近隣のノンタブリー市内のEGAT本店にて関係者による運転開始式を行いました。

1.背景

 近年、タイでは経済発展に伴う電力需要量の伸長により、送電系統の電力損失(以下、送電ロス)の抑制が課題となっています。また、タイ国内の主要な電源が火力発電所であることから天然ガスなどの化石燃料の使用量が増加しており、環境負荷の低減を考えた電源構成の実現に向けて再生可能エネルギーの導入が求められています。

 そうした中、本実証事業を実施するタイ北東部では、隣国からの電力購入や、水力および太陽光発電所などの新たな電源の新設が検討されています。これらのさまざまな電源が電力系統に接続された場合、送電系統の電圧を最適化する仕組みがないため、安定的な電力供給と送電ロスの抑制の両立が難しいという課題があります。

2.実証事業の概要

 このような背景のもと、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)は、タイのエネルギー省(MoEN)と電力系統運用の低炭素化・高度化を目的とした実証事業※1を実施するため、2020年12月に協力合意書(LOI:Letter of Intent)を取り交わしました。これと同時に、本実証事業を委託した株式会社日立製作所(日立)とタイの発電・送電事業を担う国営電力会社であるEGATは、プロジェクト合意書(PA:Project Agreement)を締結しました。

 これに基づき、日立とEGATは、EGATがタイ北東部に所有する送電系統を対象に電圧・無効電力オンライン最適制御システム(OPENVQ)※2を導入し、電力系統運用の高度化・効率化を通じて送電ロスを抑制することにより、CO2排出量の削減を目指し実証事業を開始※3しました。

 日立は、本格実証に先立ち、2022年11月にOPENVQの導入を完了しました。2023年1月からは、フェーズ1として、EGAT運用者と共にOPENVQの制御指令に基づいた手動制御を行いました。今回、フェーズ2として、2023年2月21日より、OPENVQをEGATが運用する給電指令所の電力系統の監視と制御を行うSCADA※4システムと連携させた実証運転を開始しました。これにより、EGAT運用者を介さずにSCADAを経由してEGATの電力系統の自動制御が可能となります。

 なお、OPENVQ導入後のモニタリングデータを二国間クレジット制度(JCM:Joint Crediting Mechanism)※5の合同委員会に承認された方法論で分析した結果、2023年2月21日から3月10日までに約1000トンのCO2排出量の削減効果を確認しています。さらに、並行してJCMの手続きに基づいたプロジェクト設計書(PDD:Project Design Document)※6を作成し、2023年3月15日に第三者機関から妥当性確認書※7を受領しました。

 今後は、JCMの合同委員会に対してプロジェクト登録を行い、2023年12月までのモニタリング結果をもとに第三者機関の検証を経て、CO2クレジットの発行を目指し、タイと日本のカーボンニュートラル実現に寄与します。

3.運転開始式

 本日、バンコク近隣のノンタブリー市内のEGAT本店で、多数の関係者出席のもと、OPENVQの運転開始式を開催しました。運転開始式では各者のスピーチや日立とEGATから本実証事業の概要や導入効果の紹介を行いました。

【注釈】

※1 実証事業

事 業 名:二国間クレジット制度(JCM)等を活用した低炭素技術普及促進事業/低炭素技術による市場創出促進事業/ICTを活用した送電系統の電圧・無効電力オンライン最適制御(OPENVQ)による送電系統運用の低炭素化・高度化事業(タイ)【委託事業】

事業期間:2020年度~2023年度

※2 電圧・無効電力オンライン最適制御システム(OPENVQ)

OPENVQは、系統制御システムから電力系統の設備データや計測データを取り込み、発電計画や気象予測などの外部情報と組み合わせることで、将来の系統潮流・需給バランスを予測します。さらに電圧安定度を確保した上で、電圧・無効電力をオンラインで最適制御することにより、送電ロスの抑制をはじめとした電力系統運用の高度化・効率化を実現するシステムです。

(参考)電圧・無効電力オンライン最適制御システム(OPENVQシステム):日立製作所

https://www.hitachi.co.jp/products/it/control_sys/ems/openvq.html

※3 実証事業を開始

(参考)ニュースリリース(2021年1月12日)「タイ初、送電系統の電圧・無効電力オンライン最適制御システムの実証事業を開始」

日立リリース https://www.hitachi.co.jp/New/cnews/month/2021/01/0112.html

NEDOリリース https://www.nedo.go.jp/news/press/AA5_101391.html

※4 SCADA

Supervisory Control And Data Acquisitionの略でコンピューターによる電力系統の監視と制御を行うシステムです。

※5 二国間クレジット制度(JCM:Joint Crediting Mechanism)

JCMパートナーの途上国と協力してCO2の削減に取り組み、削減の成果を両国で分け合う制度です。

(参考)二国間クレジット制度(JCM)とは http://gec.jp/jcm/jp_old/about/index.html

※6 プロジェクト設計書(PDD:Project Design Document)

二国間クレジット制度のプロセスの一環で、プロジェクトの内容、排出削減量の算定などが記載された文書です。

※7 妥当性確認書

提案されたプロジェクトが、客観的に判断可能な適格性要件に合致しているかを、第三者機関が評価しそれを証明する書類です。

 

4.問い合わせ先

(本ニュースリリースの内容についての問い合わせ先)

NEDO スマートコミュニティ・エネルギーシステム部 担当:建部、大恵(おおえ)、勝尾

TEL:044-520-5274

(株)日立製作所 社会ビジネスユニット 制御プラットフォーム統括本部

エネルギーソリューション本部 電力システム設計部 担当:多田、丹宗

問い合わせフォーム:https://www8.hitachi.co.jp/inquiry/control/jp/main/form.jsp?UM_QNo=1

(その他NEDO事業についての一般的な問い合わせ先)

NEDO 広報部 担当:坂本、黒川、橋本、鈴木、根本

TEL:044-520-5151 E-mail:nedo_press[*]ml.nedo.go.jp

E-mailは上記アドレスの[*]を@に変えて使用してください。

※新聞、TVなどで弊機構の名称をご紹介いただく際は、“NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)”または“NEDO”のご使用をお願いいたします。

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